多くの人に新型コロナワクチンをお勧めしています。副反応についての注意は必要ですが、それ以上にメリットが大きいと判断されます。リウマチ膠原病の方にも、アナフィラキシーなどの特別なアレルギーの既往がある人以外は積極的に推奨しています。
コロナワクチン接種
今月の掲示板
新年が始まりました
コロナ禍の新年。「おめでとう」とは言いにくい昨今ですが、それでも(そうだからこそ)年の初めに目標を語りたいと思います。
本年2月6日を持って当院は開院9周年を迎えます。10年目の目標。らびっとクリニックの役割(ミッション)を初心に立ち返って再確認します。
For patients with Rheumatism, Arthritis and Body aches, providing Best Investigation and Therapy (RABBIT)
(リウマチ性疾患、関節炎、からだの痛みを抱える患者に最適の検査と治療を提供すること)
試行錯誤の苦節9年でしたが、からだ(筋骨格系)の痛みの患者さんの道先案内役(ゲートキーパー)が私たちの最大のミッションであることをしっかり再認識して新たなステージに立ちたいと思います。そのために必要なこと必要でないことを再点検していきます。
まずは、私の尊敬する、先達たち(オスラー博士、日野原先生、恩師・柏崎先生)の導きの言葉を思い起こすことから始めたいと思います。
Our main business is not to see what lies dimly at a distance but to do what lies clearly at hand.
われわれの大事な仕事は、遠くの方にかすかにあるものを見ようとすることではなく、手元に明らかに存在するものを行うことである (ウィリアム・オスラー)。
健康診断の意味
先日、精密検査でCTを受けました。大きな問題は無かったものの腹部大動脈に紛れも無い老化を示す石灰化(動脈硬化の所見)がチラホラみえる。私より10才若い同僚の医者に見せると
「まあ年相応でしょうね」と一言。
日曜日の朝、11才になるラブラドールレトリバーを連れて見沼代用水西縁の桜並木を散歩します。帰宅して犬の足を屋外の水道で洗おうとして蛇口を開こうとしましたが、ホースの中が凍りついて水が出ない。
「外の(足洗い場の)ホースが凍りついて、(水が)出ない」と妻に言ったのですが、
「袖にソースがこびりついて、取れない?」などと聞き返される。
やれやれ、私の滑舌もここまでひどくなってきたかと思うと同時に妻の耳年齢をいぶかりながら、ちょっとがっかりしました。
老化はある意味生まれて間もなく全てのひとに始まり、中年期以降は加速して人生の終着点をめざしてゆくのに、当事者は相当の老境に至るまではなかなか気づかないものです。
健康診断を受ける意味は、健康であることの確認、疾患の早期発見とともに自らの老化や人生の残り時間に思いをはせることにもあるのかもしれないと思った次第です。
落語に見るビョーキ② 明烏
明烏(あけがらす)といえば名人文楽の十八番で有名ですが、Youtubeで見るとやはり時代を感じてしまいます。志ん朝の明烏が私には心地よい。騙されて吉原に連れてこられた真面目一辺倒の「若旦那」が「女郎なんか買った日にはカサかきます」とメソメソ泣く場面があります。結局のところ若旦那一人が花魁にモテまくり、先輩格の「ゴロツキ」二人がクサるというおはなし。カサ(瘡)とは梅毒のこと。
昔私が働いていたある都内の老人ホームで、入所していた80台の老紳士が教えてくれた話。
「先生、花のさきがけはなんです?」といたずらっぽい質問。
「梅ですか」
「そうです。さきがけは魁と書く。花の魁とは花魁(おいらん)。花魁といえば梅毒が怖いでしょ。だから花のさきがけは梅というのがオチなんです。」
梅毒が過去の病気と思われていた時代もありましたが、現在むしろ増えているようです(国立感染症研究所、下図)、建前上遊郭もない時代に。これはこの病気が特殊な性慣習から起きる病気ではなくなったことを意味しているかもしれません。
落語の明烏は明るく健康的に終わりますが、この話のもとになった江戸浄瑠璃の「明烏夢泡雪」では、深い恋仲になった二人は心中に追い込まれてしまいます。郭(くるわ)噺は哀しみと悲惨さを前提におかしみを楽しむ上級芸のようです。
落語にみるビョーキ① 芝浜
最近落語の「芝浜」をいろんな噺家で聞いています。師走にはうってつけのheartwarmingな噺です。私はやはり志ん朝が一番だと思うな。どうしてって、こんなにも、かなしくって泣かせ、おかしくって笑わせてくれる手練は志ん朝が一番でじゃありませんか。元来腕の良い魚売りの熊という男が、酒によって仕事を失い、たまたま芝の浜で拾った五十両の入った財布を見つけることでさらに決定的に身を持ち崩しかける。それを女房の機転で、おもいがけない取得物が酔っ払いの妄想だったと夫に信じ込ませて、見事アルコール依存症の夫を再び勤勉な魚屋に立ち直らせるというお噺。最後のオチで、立ち直った熊は女房の許しを得て酒を3年ぶりに飲もうとするが、キッパリと断酒を続けることにする、「また夢になるといけねえ」と。アルコール依存治療の本質を捉えて、しっかり泣かせてから希望を見せる技にぐうの音も出ません。
アルコール依存ぎみのどうしようもないような輩は落語の中に多く出場しますが、アルコールの危険性について昔からの庶民の知恵と倫理観が静かに諭しています。途方もない酒好きの噺家の語る、後ろめたさの見え隠れする諭しだからこそ身にしみてくるのです。
12月の掲示板から 乾燥に注意
ナイロンタオルにブクブク泡立てて、背中ゴシゴシ。とてもさっぱりするようですが、油ギッキュな年齢を過ぎつつある方には要注意です。
落語の楽しみ
最近1970−80年代の志ん朝の落語を聞いて夜更かししています。その昔高校生の頃文化祭の出し物で俄仕込みの「時そば」を体育館で演じたことがありました。たった一度きりの「高座」でしたがとても楽しい経験でした。
最近たまたま見たNHKのドラマ「昭和元禄落語心中」がとても面白くはまってしまい、原作の漫画を一気読み。それでも飽き足らずYoutubeで昔の落語を漁り見ています。江戸時代や明治の江戸っ子庶民のおかしいような悲しいような切ないような風俗がとても美しい。おかしさと哀しさが一体となっているからこそ愛おしいのです。数ある名人の中でも志ん朝が私は一番好きなのです。テヤンデェイ!
にせの痛風?ピロリン酸カルシウム沈着性(リウマチ疾患ミニ講座④)
痛風といえば、大酒飲みで美食家のかかる病気というイメージでしょうか?ある日突然足の親指の付け根がパンパンに腫れて、激痛で歩けない。大の男が、杖を使って泣きべそカキカキ来院するというような図で描かれることが多いと思います。本当は大酒飲みや大食家でもなく普通の若者や高齢女性にもありうる病気なのですが。
これと似た病気で、突然手や膝の関節が腫れて時に発熱する高齢者の病気があります。「偽痛風(ぎつうふう)」という病気で、関節の軟骨にカルシウムの血症が溜まって、ある日突然炎症を起こす病気です。急激な激しい関節炎の状態が、痛風そっくりなことから「偽痛風」と呼ばれますが、長引く関節炎を起こすような患者さんでは関節リウマチと間違えられることもあります。また時に発熱を伴うことがあるため、感染症と間違えられることも時にあります。さらに首の骨にこのカルシウム結晶が沈着して炎症を起こすと、激しい首と後頭部の痛みを訴えることがあり、髄膜炎などと間違えられることもあります(クラウンド・デンス症候群と呼ばれる)。X線写真で軟骨内に特徴的な石灰沈着像が見られ、関節液検査でカルシウム結晶を確認することで診断されます。リウマチ性多発筋痛症、RS3PEともよく似た発症の仕方をすることがあります。治療は消炎鎮痛薬が中心ですが、ステロイド注射が劇的に効くこともあります。
両手の甲がパンパンに腫れる関節炎(リウマチ疾患ミニ講座③)
RS3PE(アールエススリーピーオーと呼ぶ)症候群という聞きなれない疾患があります。スターウオーズに出てくるドロイドの名前のようですが、れっきとしたリウマチ性疾患の一つです。比較的珍しいと思われていましたが、開業してみると、高齢者の関節炎に以外に多く見られる病態であると感じています。
R=remitting(治りやすい)
S3=seronegative, symmetrical, synovitis,(リウマチ因子陰性で左右対称の滑膜炎)
PE=pitting edema(押すと窪んでむくんでいる)
上の英語の頭文字を連ねて、RS3PEとなります。この疾患は、関節リウマチやリウマチ性多発筋痛症との見分けが難しいことがあり、時に悪性疾患の合併が見られることがあります。
少量の副腎皮質ステロイドで「治りやすい」のですがしばしば再発もあり、リウマチ薬の併用が必要なケースもあります。下の写真では手背全体が腫れていて、押したところに窪み(pitting edema)が残っていることが分かります。