
いたみとは何か?
いたみとは、不快なからだの「感覚」であると同時に不快な「情動」体験であると定義されています(国際疼痛学会)。「からだが傷ついている」という身体感覚と苦痛に満ちた心の動き(負の情動)がセットになっているのです。負の情動には怒り、不安、恐怖、悲しみなどの感情がうごめいています。
いたみがどんなに辛くひどいものであっても、様々なからだの精密検査によって、いたみの原因となる「身体のきず」が見つかるとは限りません。むしろ長引くいたみの多くは身体的検査で異常が出ないことの方が多いのです。私たちは、慢性疼痛の患者さんを見るときにからだの異常を捜すと同時にこころの動きにも注意を払います。怒り、不安、恐怖、悲しみなどの感情や記憶といたみの関連を理解しようとします。この両面的(表と裏、または外側と内側)アプローチこそが、慢性疼痛診療に欠かせない基本的態度であると考えています。そして線維筋痛症は慢性疼痛の代表的疾患と言えます。

線維筋痛症はどんな病気?
線維筋痛症は全身の広範囲の部位が激しく痛み、強い疲労感や不眠、うつ症状などを来す病気です。近年、世界保健機関(WHO)が改訂した国際疾病分類(ICD-11)で慢性疼痛の体系的分類が定義されました。その中で線維筋痛症は、組織障害が明らかでない原因不明の慢性一次性疼痛の疾患単位の中に位置づけられました。慢性疼痛は心理社会的状況に密接に関連して生じるとされており、線維筋痛症の場合も心身の両面にアプローチすることが大切です。そのためには薬の治療だけではなく、運動療法や生活習慣の改善、ストレス対処力の向上、良い睡眠をとることなどがとても大切です。また、治療者と患者さんの信頼関係が良好でなければ治療は成功しません。治療者と患者さん相互が協力しあって病状改善のために努力する必要があります。