らびっとクリニック院長の医療雑話

That is why we come to this placeーオバマ演説に思う

投稿日:2016/5/29

Nations arise telling a story that binds people together in sacrifice and cooperation, allowing for remarkable feats, but those same stories have so often been used to oppress and dehumanize those who are different. Science allows us to communicate across the seas, fly above the clouds, to cure disease and understand the cosmos. But those same discoveries can be turned into ever more efficient killing machines.

国家は、犠牲と協力によって国民が一致団結する物語を提起し、驚くべき偉業を成し遂げます。しかし同じ物語が、自分たちと違う国民を抑圧したり人間疎外のためにしばしば利用されてきました。科学進歩により、私たちは大洋を越えてコミュニケーションしたり、雲の上を飛んだり、疾患を治療したり、宇宙の仕組みを理解できるようなりました。しかしその一方でこの(科学的な)発見が、殺人機械に変わることも可能にしたのです(筆者訳)。

オバマ演説の中で私が最も感銘を受けたのはこの部分です。感動的な未来志向の演説に見えて、大統領は太古から続く人間の歴史の両義性に対する一種の「絶望感」をあまりにも正直に告白しているように感じてならないのです。現職政治家は(しかも世界のリーダーが)このような絶望感を吐露しても良いのだろうか?これは「謝罪の言葉」などよりもはるかに深く暗く重い歴史認識ではないか、と。両義性に絡みとられて身動きが取れない現代社会の困難に、それでも対峙し続けるという覚悟は、悲壮な言葉では語られず、キッチンテーブル傍の幸福感や家族の抱擁という柔らかな文脈の中で語られる。このあざとい程の演説のうまさに私たちは舌を巻きながらも深く感動し内省せざるをえない。

振り返って私たちがここにきた意味(言い換えれば、現代を生きる意味)を問う。このせめぎ合う人間の両義性の克服のために何ができるのかを問う。

私は政治家ではないが、医者として医療の両義性を感じている。命を守ることと自然の摂理に従うことの対立。医療コストと生命の平等性の対立。科学性と倫理性。先進国と途上国の医療の不平等。それらの対立点にあえて身を置くことは大変な骨折りであり出来たら避けたいことだと、軟弱な私などは思ってしまう。「病いを癒す」という極めてシンプルな物語を小さな地域の診察室の中で求めることでさえ必ずしも容易ではない。オバマ氏の名演説中の政治の物語との何がしかの相似性を感じながら・・・しかし様々な「物語」の両義性を理解しようとする想像力を枯らさないでいたい。

 

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