らびっとクリニック院長の医療雑話

RA寛解基準

投稿日:2012/8/25

関節リウマチの寛解(治療によって疾患が十分抑えられて、症状が消え病気の進行が止まった状態)を評価するための基準がいくつかありますが、患者の自己評価、医師の評価、関節の腫れと痛みの数、炎症反応の指標を組み合わせた総合的評価法(composite measure)をもちいて判断することが標準的です。昔の内科系のリウマチ医の中には関節に触りもせず、患者に痛みの程度を聞くこともなく、赤沈やCRP値のみで病気の状態を判断していたものも少なくありませんでしたが、今はそのような医者をリウマチ医と呼ぶことはありません。
しかし今でも欧州リウマチ学会・米国リウマチ学会の推奨する寛解基準の指標の中で「患者の自己評価」の項目が「じゃまな指標」と感じるリウマチ医は少なくないかもしれません。生物学的製剤で関節リウマチが強力に抑えられると炎症所見や関節所見はすばらしく良くなったはずなのに本人の自己評価だけは「10分の8程度の痛み(最悪の状態が10とすると2割しか良くなっていない)」のままということがときどきあります。それはすでに関節変形が固定してしまったための痛みであったり、不安感や抑うつ感が隠れていたためだったり、中枢神経において痛みの感作が成立し慢性疼痛化してしまったためであったりしますが、そういう患者を前にした時、医者は「もうこれ以上良くなりっこありませんよ」とか「こんなに良くなっているのに満足できませんか」とか「今残っている痛みは心の問題です」と言いたくなるかもしれない(実際そのように言われて傷ついた方も少なくないと思います)。でもこれでは20年(?)前の「CRPリウマチ医」から少しも進歩していないのではないでしょうか?患者の語る実存的な痛みに耳を傾けないでCRPのみを信用する医者であるからです。

リウマチ医はその対象とする疾患の性格から、臓器別診療医(関節炎医?)であってはならず、全人的医療の実践を志す総合医であるべきだと思っています。強力に炎症を抑えてもまだ痛む「関節炎後疼痛」とでも言うべき慢性疼痛から私たちリウマチ医は目をそらすことはできないわけで、上記の寛解の総合的評価法(composite measure)から自己評価項目を外すことは間違いだと思います。痛みから開放されない限りリウマチ医は患者に寛解と言ってはならない。寛解という言葉は薬効評価のためだけのものではないはずです。だからこそ、関節リウマチや膠原病を背景に持つ二次性線維筋痛症(現在は一次性、二次性の区別はしなくなりましたが)をよその科に投げ出すわけにはいかないのです。これが、私が線維筋痛症・広範囲疼痛と向きあおうとする理由です。

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