感染症が「外から入ってくる病気」ならば、癌は「内から発生する病気」といえます。人は老いていくことを「内から生じる生理現象」と観念できても、細胞の老化ゆえに遺伝子の傷が修復できず発症する癌を「外から侵略してきた病気」のように取り扱うことが多いかもしれません。しかし今や日本人の2人に1人が癌に罹り、3人に1人が癌で亡くなる日本では、癌は最も当たり前な病気の筆頭と言えると思います。外から入ってきたものではなく、老化とともに誰しもが自然に罹りうる病気。もはや「癌の家系」云々という議論は無意味のようにも思われます。50%の確率で癌にかかるのですから・・・。それでもいくつかの癌は、ある程度癌検診で予防できるかもしれません。検診を受ける意義は、完全なる癌の克服というよりも、日々失われる人生の時間を幾分かセーブすることではないかと私は思っています。
私は、成熟したのち人生の後半に入ったものはすべからく死を学ぶことが人間として必要な「教育」だと思っています。死は何人にも避けられず、病いもまた同様であるならば、医療は死に抗う行為ではなく、死の苦痛を和らげ死を理解し共有し、それによってより自らの残りの人生を意義深いものにできるようにするための援助とはいえないでしょうか。癌の早期発見はもとより重要であるが、細胞の老化と死を通して個体の死を学ぶ重要な教育機会だとも思うのです。
一方、戦争は完全に「外部から侵入してくる死」でしかないと私は思います。それとも戦争も癌と同様に人間社会の内側から生じる「必然」なのでしょうか?