「せんい きんつう しょう、という病名なのですか?」
タエコさんは聞いたこともない病名に戸惑いを感じながらも、なぜかホッとした気持ちになりました。何も病名をつけられないまま、「悪いものは何もないから大丈夫」などと言われるくらいなら、最悪の病名でもついた方がましだと感じていたからです。
「線維筋痛症という病名は、fibromyalgiaを訳しただけのもので病理学的な裏付けはない名前なのです。別に筋肉が線維に置き換わるというような病気ではないのです。痛みの本態は筋肉ではなく中枢神経にあるのです。まだまだ良くわかってはいませんが、脳や脊髄の中で痛みに関わる神経伝達の仕組みに故障が起こっているといったらよいでしょうか。」
「脳の病気、ですか?みんなに心の病気と言われるのですがそういうことなんですか?」
「心の病気という言葉では捉えない方が良いと思います。この病気で起こる痛みは実態のあるものだと私たちは考えています。架空の痛みという意味あいが、『心因性』という呼び方に込められるならばそれは正しくないと思います。あなたの痛みは実態のある病気と考えますが、神経伝達の問題なので外からは見えないのだと言えます。」
「見えない痛み…もちろん痛みは嘘ではありません。でもこの激しい痛みを人に『見せられない』ときくと何だか切ないです。単なる痛がり病、怠け病のように思われるような気がします。」
医師は大きく頷いて、圧痛計を取り出して見せました。(この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません)
投稿日:2013/3/24