昔から血液型と性格の話になると医者や看護師の間でも大いに会話が盛り上がります。そこへ「医学的根拠がない!」で一刀両断する大人な人が出てきて、「閑話休題」となるのがだいたいの相場です。でも臨床の現場では医学的根拠のない偉大な薬やマカ不思議な「相関関係」も少なくないと思いませんか?
血液型はともかくとしても、古い臨床の知恵の中にはこの手の話は山ほどあって、ずっと後世になってから理屈がつくような話も少なくありません。柳の小枝を楊枝にして使うと歯痛に良いという古い知恵は、後世の薬理学では柳に含まれるサリチル酸の鎮痛効果だと解釈されます。抗リウマチ薬の中で最も重要な薬であるメトトレキサートを使うと心筋梗塞が減るなどという疫学事実もどうしてなのか病態はあまりはっきりわかっていません。炎症を抑えるメトトレキサートの効果が動脈硬化予防につながるのだろうということになっていますが、はっきりとはわからないのです。リウマチの金療法などは「リウマチは結核から起こる」「結核に金療法が効く」という二重の間違った推論から生まれた治療と聞いたことがありますが、実際に金はこの半世紀のリウマチ治療の中で最も重要な抗リウマチ薬と位置づけられてきました。理屈がつかないから不要な薬と言うわけではないのです。
金にかぎらず古い抗リウマチ薬はどうして効くのか分からないものが多かったのですが昨今の分子標的薬は理屈が先行して生まれたものなので医者的にはとてもわかりやすく受けが良い。何よりも効果が明確に現れます。西洋医学の成果をここでは実感できるし基礎と臨床の蜜月を信じることもできる。漢方に至っては「効く」という事実があってもそれを裏付ける理屈がサイエンスを飛び越えたパラダイムなので、概ね21世紀のウィルヒョウの弟子たちの理解を超えています。
理論は経験にしかず。私はO型ですが、”O”おらかでも”O”だやかでも”O”ーざっぱでもないと思っていますがそうゆう”O”型的性格占いを嫌うものではありません。最近の話題としてO型は他の血液型に比べて膵癌のリスクが低いというものがあります(Nat Genet. 2009 Sep;41(9):986-90.)。この権威ある雑誌に掲載された、ゲノムワイドアソシエーション研究の中で、ABO遺伝子座の第1イントロンの遺伝子多型によって、血中TNFα濃度やICAM-1濃度が変わるなどという話もあり、炎症に関わる分野の病気をみるものとしてはとてもゾクゾクする話です。あんがいリウマチの重症度とABO血液型との関連があるのかも?
まあ「血液型など根拠もない話」、などと色眼鏡で見ずに、ニュートンの言う”great ocean of truth”に泳がせて楽しむことも大事ですね。