明烏(あけがらす)といえば名人文楽の十八番で有名ですが、Youtubeで見るとやはり時代を感じてしまいます。志ん朝の明烏が私には心地よい。騙されて吉原に連れてこられた真面目一辺倒の「若旦那」が「女郎なんか買った日にはカサかきます」とメソメソ泣く場面があります。結局のところ若旦那一人が花魁にモテまくり、先輩格の「ゴロツキ」二人がクサるというおはなし。カサ(瘡)とは梅毒のこと。
昔私が働いていたある都内の老人ホームで、入所していた80台の老紳士が教えてくれた話。
「先生、花のさきがけはなんです?」といたずらっぽい質問。
「梅ですか」
「そうです。さきがけは魁と書く。花の魁とは花魁(おいらん)。花魁といえば梅毒が怖いでしょ。だから花のさきがけは梅というのがオチなんです。」
梅毒が過去の病気と思われていた時代もありましたが、現在むしろ増えているようです(国立感染症研究所、下図)、建前上遊郭もない時代に。これはこの病気が特殊な性慣習から起きる病気ではなくなったことを意味しているかもしれません。
落語の明烏は明るく健康的に終わりますが、この話のもとになった江戸浄瑠璃の「明烏夢泡雪」では、深い恋仲になった二人は心中に追い込まれてしまいます。郭(くるわ)噺は哀しみと悲惨さを前提におかしみを楽しむ上級芸のようです。