最近落語の「芝浜」をいろんな噺家で聞いています。師走にはうってつけのheartwarmingな噺です。私はやはり志ん朝が一番だと思うな。どうしてって、こんなにも、かなしくって泣かせ、おかしくって笑わせてくれる手練は志ん朝が一番でじゃありませんか。元来腕の良い魚売りの熊という男が、酒によって仕事を失い、たまたま芝の浜で拾った五十両の入った財布を見つけることでさらに決定的に身を持ち崩しかける。それを女房の機転で、おもいがけない取得物が酔っ払いの妄想だったと夫に信じ込ませて、見事アルコール依存症の夫を再び勤勉な魚屋に立ち直らせるというお噺。最後のオチで、立ち直った熊は女房の許しを得て酒を3年ぶりに飲もうとするが、キッパリと断酒を続けることにする、「また夢になるといけねえ」と。アルコール依存治療の本質を捉えて、しっかり泣かせてから希望を見せる技にぐうの音も出ません。
アルコール依存ぎみのどうしようもないような輩は落語の中に多く出場しますが、アルコールの危険性について昔からの庶民の知恵と倫理観が静かに諭しています。途方もない酒好きの噺家の語る、後ろめたさの見え隠れする諭しだからこそ身にしみてくるのです。