「ピアカウンセリングが重要なのです。」と、短い銀髪をきれいにまとめた老婦人は私を穏やかに見ながら話を続けた。
「患者同士がお互いに学び合って励まし合うことが力になるのです。私たちは何十年もこの病気とつき合ってきました。私たちが多くの医師を育ててきたし行政を動かしてきたのです。」
五十年に及ぶ難病との闘いによっても萎えることのない強い意志を、この老婦人の穏やかなまなざしとは対照的な直截的な言葉の中に感じた。
私は患者会に招かれ、疾患についての1時間の講演をしにきたはずだったのだが、逆に銀髪の老婦人を始め多くの患者会の方々の話を聴講する立場に変わっていた。教科書をなぞるだけの講義を聴くことが、彼女らのこの日の集会の目的ではなく、新参者の開業医にきちんと患者会の役割と機能を理解させることが本当のねらいだったのかもしれない。
患者は弱者だと多くの人が(とりわけ医師は)勝手に決め込んでしまっているかもしれない。ひとりぼっちの患者は確かに弱い存在かもしれない。しかし何十人(あるいは何百、何千人?)ものピア(仲間)に支えられ、行政と立ち向かい、医師と渡り合う中で大きな力を獲得してきたのだ。
「先生、私たちは本当はこわい存在かもしれませんよ」
別れ際に、役員の一人の女性がいたずらっぽく笑った。