医療のあらゆる分野で、EBM(統計的根拠に基づく医療)を下敷にガイドラインが作られています。ガイドラインの定義については米国医学研究所が「医療者と患者が特定の臨床状況での適切な診療の意思決定を行うことを助ける目的で系統的に作成された文書」と定めています。リウマチ医療においても、ACR、EULARが中心となって、診断・治療のガイドラインが作られ、それに準じた医療を行うことが求められています。ただし日本の保険診療の現状は必ずしもガイドラインに基づくわけではなく、ガイドラインに沿って行った諸検査が保険診療としては過剰とみなされる可能性もないわけではありません。ガイドラインは金科玉条として遵守されるべきものではないし、保険診療のカバーされる内容であるとも限らないのですが、若い先生方がガイドラインを振り回す場面を最近よくに目にします。
リウマチ診療のガイドラインが目指す方向は関節リウマチ発症の早期から強力な抗リウマチ薬を必要十分に投与して早期に寛解にいたらしめ、可能な限り深い寛解状態で維持すべきというニュアンスだと理解しています。
私たちのオピニオンリーダーは世界中の権威ある論文を公正に吟味して統計的におそらく正しい道を「専門医」を標榜する我々に指し示してくれます。専門医たるものとしてはできるだけ、オピニオンリーダーの言葉を理解して臨床の現場でうまく復唱できるように毎月何回も開催される薬品会社主催の研究会に参加しています。
しかし実際の現場では、ガイドラインにうまく乗っからない患者さんも少なくないのです。例えば十分量のMTXにてもコントロールできない発症早期の若いリウマチ患者さんにある生物学的製剤を勧めるが経済的に高額な薬が使えないというようなことはしばしばあります。妊娠を考える患者が頑なに抗リウマチ薬を拒否することも少なくありません。MTXが使えない間質性肺炎の強い高齢者でやむなく少量ステロイドやオピオイド系鎮痛薬で様子を見ている方など、「本当はガイドラインの推奨する治療じゃないんだけど」と、後ろめたさを感じながら治療していることもなくはないのです。
ガイドラインのしばりは、おそらくその分野の専門診療に携わっているという意識に対して作用するもので、門外漢の医師がその分野の疾患のガイドラインを無視したとしてもさほど良心の呵責は感じないものなのではいでしょうか。だからこそEBMを信じガイドラインを準拠していることで専門医療の担保がされているという信仰がうまれ、枠組みから外れると思考停止状態に陥るということもかなりありそうです。
しかし専門医ほどガイドラインに乗っかりにくい非典型的な患者や一筋縄でいかない患者さんをたくさん見ざるを得ない。ガイドラインが専門医の首を絞めるようです。
ガイドラインはそこそこに、患者さんの話を聞いたり痛い場所に触れたりする中でざっくり治療の流れを決めて行くのも、私はありだと思っています。
「推奨度A、Bにあらざるは医療にあらず」などといっているとそのうち「おごれる者も久しからず」になってしまうかも。