らびっとクリニック院長の医療雑話

むかしの名前ででています

投稿日:2013/10/6

病名は人が恣意的に定めたもので本当の実態はその枠組みに収まるものとは限らない。我々が一つの病名で呼んでいる状態も実は多彩な背景を持つ疾患群の表現型の類似点について言及しているだけに過ぎないかもしれない。

名付けることで、アイデンティティが獲得されて顔が知れ渡る。そこに来て仲間が増えると新しい仲間にふさわしい名前に置き換えていく。メンバーチェンジを繰り返しながら新陳代謝して変わっていく、古いロックバンドのようだ。しかしそれはかつての名前で呼ばれたものとはどこかしら違っている。1967年にイギリスでピーター・ガブリエルが作ったジェネシスというロックバンドが、1980年台にフィル・コリンズによるポップスなグループに変わった時、古いファンは「これは、もはやジェネシスではない」と思った。
さて、線維筋痛症。この疾患概念が大きく動いている。DSM-Vによるsomatic symptom disorderという疾患概念が提唱された。この概念に線維筋痛症が吸収されるとしたら、慢性疼痛だけではなく不定愁訴症候群とでも言う枠組みに拡大されてしまうかもしれない。それでは線維筋痛症のコアな病態が見えなくなるのではないか?それはどうなんだろう、本当に線維筋痛症なのか。

時代とともに疾患の概念と枠組みも変わって行くのは世の常。昔の「慢性関節リウマチ」と現在の関節リウマチもかなり枠組みが変わっている。今の早期リウマチを1980年台のリウマチ医は「慢性関節リウマチ」と診断することをためらったであろう。昔の「慢性関節リウマチ」は現在ではestablished(出来上がってしまった)リウマチと呼び、治療の開始が遅れてしまった進行期の病状とみる。
30年以上前には線維筋痛症の概念はまだなくfibrositisと呼ばれていた。病態生理も今のものと異なったものと考えられていた。30年後線維筋痛症がなんという病気で呼ばれているかはわからない。しかしどの時代でもその時代の言葉と病名を使って、患者の苦痛を和らげようとする努力の中でしか疾患と対峙することはできない。病名を否定したり、そもそもこの疾患名が包括する患者一群を無視する医師も少なくないが、医師は病名の固まった病気を治すのではなく病人を治すという本来の使命に立ち返るべきだと思う。

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