らびっとクリニック院長の医療雑話

「自分を使い切る」

投稿日:2014/5/18

先日電車の中吊り広告を何となく見ていたときに、雑誌の見出しになっていた樹木希林さんの言葉に目が止まりました。

「全身がん 自分を使いきって死にたい」

不治の病に全身を蝕まれながらも、最期まで「自分を使い切る」という覚悟。どうしてこの人は、このように最期を明確に意識しながらも気丈に生きていけるのだろうか?私は不覚にも、広告のキャッチコピーに心が強く揺さぶられました。

多くの病気には原因があって原因が排除されるともとの体に完全に戻ると、少なくない方が信じているかもしれません。しかし私たちのように慢性疾患と向き合う医師は病気をむしろその人の人生・生活の一部と認識している様な気がします。それは疾患を治すことが出来ないヤブ医者のいい訳だと叱られるかもしれませんが、病気を「外のもの」健康は「内のもの」ととらえることが患者の療養生活を逆につらいものとしている気がしてならないのです。

この痛みはどこからくるのか?なぜ痛みは消えないのか?いつまでこの苦痛が続くのか?・・・慢性疼痛の方々の、怒りにも似た質問に私は明確に答えることは出来ない。ただ痛みを受け入れてその上でなお出来ることを考えられる様になることで、多くの慢性疼痛の方々に安らぎが戻ってくる。痛みの「原因」はわからなくても、不安と怒り、悲しみ、抑うつは乗り越えられる。それが痛みの閾値を改善(痛みを感じにくく)してくれることを知っています。

つらい現実を抱えながらも、最期まで何かのために自分を使い切る覚悟は、決して簡単に手に入るものではないでしょう。しかし現時点での医療技術の限界を知るならば、痛みという実存的現象をまずは生活の一部分として受容していただき、何はともあれ患者さん自身の力で自分の生活を前に進めていくことを私たちは応援する。それは薬や注射の医療行為以上に大切なこと。私たちの診療プリンシプルはそこにあると考えています。

何故らびっと? Concept 院長ブログ 医療雑話 クリニックからのお知らせ Doctor's Fileにて紹介されました
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